クリニックビルだより第57号でお話した、お口の健康を保つためのポイント「食後のブラッシング」「間食の制限」「フッ素入りの歯磨き粉をお使いいただくこと」の三つを覚えていらっしゃいますか?今回は、なぜフッ素が入っている歯磨き粉が良いのかについて、お話したいと思います。
フッ素の効果には、①歯の質の強化②むし歯の原因となる細菌の活動低下③再石灰化の促進があります。歯の質の強化で最も大きな効果は、ヒトの歯の一番表面にあるエナメル質を構成するハイドロキシアパタイトと呼ばれる結晶にフッ素が取り込まれると、フルオロアパタイトと呼ばれる結晶に変わることです。そのフルオロアパタイトはむし歯に対しての抵抗性が高いのです。フッ素が取り込まれると、その他の歯を構成している不安定な要素も安定化し、強い歯になります。
むし歯の原因となる細菌の活動低下は、口の中や歯の中にフッ素が存在すると酵素の働きが弱められることにより起こります。さらに、むし歯は、むし歯の原因となる細菌が歯の表面が溶かすことから始まります。その歯の表面が溶かされているだけの状態を脱灰といい、この段階ではまだむし歯とは言いません。ヒトにはその脱灰状態から元に戻そうとする力があり、それを再石灰化といいます。つまり健康な歯というのは脱灰と再石灰化のバランスがとれている状態です。フッ素はこのバランスを再石灰化方向に持っていく効果があり、これが予防につながるのです。
では、このような効果を得るために、どのようにフッ素を使えばいいのでしょうか?
全身的な使用法としては、水道水のフッ素化やフッ素の錠剤を摂取する方法があります。
しかし、フッ素を体に多く入れれば良いということではありません。現在、日本では水道法で飲料水のフッ素濃さの上限は0.8ppmに規定されていますが、水道水のフッ素は約0.1ppm程度で積極的に増加させている地域はありません。また、フッ素の錠剤についても歯科医院での販売は認められておらず、全身的な使用法を行うことは難しいでしょう。
つづいて歯に直接作用させる方法です。ひとつには、フッ素溶液でのうがいです。週に1回行う方法と毎日行う方法ではフッ素の濃さが違いますが、1回のうがいでお口の中に残るフッ素量が体に摂取される量と考えられています。このうがいよりも高い濃さで行われるのが、歯科医院で歯に塗る方法です。歯に塗る方法ではうがいに比べて約10倍の濃さを使用するため、年に数回行えばよく、半年おきの定期健診の際に塗ると良いでしょう。あとは、フッ素入りの歯磨き粉を使用する方法です。歯磨き粉に入っているフッ素の濃さは低くされていますので、1日3回毎日使用しても問題はありません。
フッ素の摂取は子供の時にしか効果がないと思われている方もいらっしゃるかもしれませんか。フッ素の吸収率は成人で10%程度ですが、子供では約30%が吸収されるので、子供には大きく効果があることは確かです。しかし、成人では体内のフッ素量が多く、積極的に摂取する必要はありませんが、効果はありますので使用してください。
むし歯予防効果は、水道水のフッ素化50〜60%、うがい法20〜50%、歯に塗る方法20〜40%、フッ素入り歯磨き粉の使用方法20〜30%といわれています。家庭で手軽に行うことができる方法としては、フッ素入りの歯磨き粉の使用が良いと思われます。当医院でもフッ素を塗る治療はございますので、お気軽に相談ください。