院長コラム

犬の歯科健診

数年前の夏の暑い日に以前からお付き合いのある犬の訓練士さんから訓練中のシェパードの歯を診て欲しいと連絡がありました。私は現在12歳と1歳のジャーマンシェパード2頭と共に生活してますので犬の歯磨きや歯石を取ったり体調を崩した時などに点滴をした事は有りますがもちろん専門外です。人間の歯の数は親知らずを入れないと28本ですが犬は乳歯が28本、永久歯は上顎が切歯3本、犬歯1本、前臼歯4本、後臼歯2本 下顎は切歯3本犬歯1本前臼歯4本、後臼歯3本でそれぞれ左右あるので42本あります。咬合はシーザースバイトと言って犬歯同士が互い違いに咬み合っているのが正常とされてます。また肉食だったため臼歯でも歯は尖っているので人間の様にすり潰す事は歯の形でもまた下顎も垂直的にしか運動しないため困難です。その程度のことしか知らないのでもちろんお断りしました。
どうしてもと診るだけで良いとお願いされ訓練所に伺う事になりました。
一応 前日に我が家の12歳のシェパードで歯の型取りをやって練習しました。とにかく診療に必要なワークテーブル、歯型を取る印象材、石膏、切削機械など必要となりそうな機材を車に詰め込んで高速道路に乗って犬の訪問診療に向かいました。
そこで待っていた犬はショータイプのオスの2歳のジャーマンシェパードで歯並びに問題があるとの事でした。ショータイプのシェパードは歩く姿勢やプロポーションなどの容姿が求められるとの事です。
初めて会うのに口の中に手を入れるのは人間も犬もお互い緊張と警戒していました。
先ずは、訓練士さんが3人がかりでおさえて口にタオルを咬ませて歯型を取ろうとしましたがとにかく力が強くまた舌も暴れて上手く出来ません。そこで上手く取れなかった歯型に石膏を注いでその型からその犬専用の型取りする枠を作りました。
犬もワニみたいに咬む力は強いですが口を閉じると大人しくなるのではかいかと思い、今度は私一人でその専用の枠を素早く犬の口に入れて犬の口を閉じてマズルを手で軽くおさえました。そのシェパードは良く訓練されていて性格も大人しくマズルを閉じて型取りが終わるまでジッと我慢してました。
クリニックで歯の模型を元に咬み合わせを診るとやはり歯の位置異常が見られました。おそらく仔犬の時に乳歯と永久歯の交換が上手くいかず犬歯が傾斜してしまった可能性があると思われます。根本的な治療は矯正になると伝えて現実的には厳しいと伝えました。我慢した犬の事を考えると何か出来る事は無いかと思いマウスピースで矯正を制作してみました。
結論からお話しすると犬が大人しくマウスピースは付けてくれませんでした。口に入れるのも大変で少し咬んだだけでバラバラになってしまいました。
後日歯が一本足りないと品評会で指摘されたと連絡がありました。もう完全に乗りかかった船状態でまたそのシェパードにすぐに会いに行きました。
良く診ると米粒よりも小さな歯の頭が見えてました。それでも1週間後の品評会でマイナスになるので何とかして欲しいとのお願いされました。
これは、完全に人間のエゴだと思いましたが時間をかけて訓練して品評会に出て結果が出ないのは犬が可愛いそうだと思い、飼い主さんのもとに帰って長く可愛がってもらうためなのだと心を鬼にして歯肉を電気メスで切開して歯を見える様にしました。
シェパードは競走馬のサラブレッドの様に実績のある犬同士で交配して犬種の特徴をその時代の流行を追って人工的に作られています。犬の世界はとっても大変で私は人間で良かったと心から思いまいした。
そのシェパードは幸運にも品評会で入賞したので番犬にされずに済んだみたいです。
そんな事も過去にあったので12歳と1歳のシェパードの歯科健診を定期的に行ってますが先日1歳の幼犬の後臼歯に歯石が付着してました。12歳の老犬は犬歯も咬耗して最近舌が口を閉じても少し出ているなと思ったら切歯も知らぬ間に2本抜けてました。犬に入れ歯は入れられませんが歯磨きと歯石除去などのクリーニングは必要ですね。
人の治療とは違い予測の出来ない事がありましたが貴重な経験が出来ました。